グッゲンハイム美術館 - フランク・ロイド・ライト
2009年 08月 18日
五番街の89丁目にあり、我が家の居間から冬の間はセントラルパークの向こうにこのの白いカタツムリが見えた。今は木に覆われて見えなくなっている。
5月の半ばから今月の23日まで、ここで建築家Frank Lloyd Wrightの特別展が開催されている。ずっと見たいと思っていたのだが、もう来週で終わり。見に行ってきた。
中は螺旋状の回廊になっていて、回廊そのものがギャラリーになっている。この回廊を歩きながら展示品を見て回る。
この他に展示室もいくつかある。
カンディンスキー、ピカソそれと、ゴッホ、ピサロ、モネなどの印象派の絵画も展示されている。
土曜の午後とあってとても混んでいた。入場券を買う人で長蛇の列。
それでも大きな回廊はさほど窮屈でもなく、ゆっくり見て回ることができた。
フランク・ロイド・ライトと言えば、日本では帝国ホテルを設計したことで有名だが、いつも紹介されるのは玄関の部分だけ。展示されている本館の建物や内部の写真、図面を見て驚いた。正倉院の校倉造りを思わせる大きな立派な建物で、室内の装飾は細部までとても凝っている。1923年の9月1日、落成記念披露宴が行われるまさにその当日、関東大震災が起こった。周辺の建物が倒壊する中で、この建物は殆ど無傷であったと言う。戦災で被害を受けたが、修復工事をして元の姿を取り戻した。
折角震災や戦災に生き残ったのに、東京の一等地に客室270では小さすぎるとのことで、1968年に建替えの為に取り壊された。たった45年、何ともったいない。玄関の部分は明治村に移設されているそうだが、ホテルの一部として、少しだけでも残せなかったものか。
先月末訪れたFallingwater(落水荘)の展示もあったが、数多く手がけた個人の邸宅の中の一つという扱いだった。
ウィスコンシン州出身のライトは田舎に建築することを好んだそう。都会での建築はあまり多くない。
山の自然の地形を利用した、壮大な建物を数多く設計している。
ライトのデザインは初めの頃は直線の組み合わせが多い。イサム・ノグチとも親交があったらしいが、日本の建築の影響を受けているのが伺われる。その後、次第に曲線が多くなってくる。
ライトはバグダッドの都市計画のデザインを依頼されている。(世界中の有名な建築家たちにデザインを依頼した。)バベルの塔のようなMuseum、アラジンの世界を髣髴とさせるオペラハウス。(バグダットに行ったことのある夫は、オペラハウスはバグダットには全く不似合いで、バグダット市民がこれを歓迎するとは思えないと憤慨していたが。) 緑の中に大学の建物がぽつぽつとあったり、かなり大規模。政権交代によりこのプロジェクトは実現しなかった。
これに限らず展示されている設計図、完成予想図にはunbuilt(未建築)のものが多い。半分以上がunbuilt。
デザインが気に入ったとしても、建築コストが予算に合わなかったのではないだろうか。
unbuiltが多い中で、よくぞこのグッゲンハイム美術館を建てたものだと思う。バベルの塔をひっくり返したようなこの建物は、数ある彼の設計の中でも最も建てにくそう。
この美術館は1943年、鉱山王Solomon R. Guggenheimからの依頼でデザインに着手、いろいろ紆余曲折を経て1959年に竣工した。建築中にはライト自身が現場に度々足を運んでいたそうだが、完成時にはグッゲンハイムもライトも鬼籍に入っていた。
建設中から、この風変わりな建物は"カップケーキ"、"洗濯機"、"大きな蕾"等、様々な愛称で呼ばれた。中央の丸天井を内側から照らせば、宇宙船のようにも見える。卵を抱く巣のようにも。
50年経った今でも十分風変わりで斬新で面白い。
真ん中は巨大な空間。ニューヨークの一等地にもったいない-などとは誰も考えない。
45年で取り壊されてしまった日本の帝国ホテルのことがちらっと頭をよぎる。
建物自体が芸術品のこの美術館は、ニューヨーク市民のみならず世界中からの観光客を魅了している。
売店の上はもう一つの小さな回廊になっている。
外に出たら入場を待つ人の列。
土曜日の5:45からは"Pay What You Wish"、払いたいだけ払う。
1ドルでも入場可。
通常は大人18ドル。
(6月の「89人のトロンボーン奏者たち」の記事も参照のこと。)
今回の展示の中には山の中に宇宙船のような丸い建物がいくつもあるのや、高層アパート群など、「へえー」と思うようなのがたくさんありました。殆どがunbuiltでしたが。
グッゲンハイムは亡くなる前の大仕事で、彼が実現に向けて心血を注いでいた様子が伺えます。unbuiltに終わらせたくなかったのでしょうね。
後で調べてわかったのですが、個人的には大変な悲劇に見舞われた人で、その悲劇の直後に帝国ホテルの仕事をしたそうです。設計の仕事は浮世を離れるための翼のようなものだったのでしょうか。
私がこのグルグル建物に来たときは、作品観賞より数倍の時間を俯瞰に費やしておりました。
気が遠くなるような浮遊感を伴って異空間に連れて行ってくれます。。。
建築って、人の作品ではあるけれど、場所、空気、時間、人間等で変化していく、それがなんとも魅力のジャンルです。
来世は建築家になりたいかも。。。でも、いろいろやってみたい職業があるぞ。気が多いからね。
私は今回あらためて見直してみて、天井の形、1階の池、もう一つ小さな回廊など、感心することしきりでした。
グッゲンハイムの設計途中の段階では、ピンクだったり、上の方が小さくなっているバベルの塔風だったり、いろいろなバージョンがありました。
建築家というのは確かに魅力的ですね。大きなものからちっちゃなことまで、いろいろデザインできるし。
食いっぱぐれがないし。。。あら、つい現実的に。。。